遺言書の裁判例

公正証書遺言の裁判例

遺言者の認知症のため、信託銀行が関与した公正証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【二男・二女】遺言内容が極めて複雑で、そのような複雑な内容の遺言を公証人に伝えたり、理解したりする能力が本人(遺言者)にはなかった。遺言書は無効である。

【長男・長女】本人は自分の遺産をどう分けたいかをきちんと述べた。そして、公証人による遺言書の読み聞かせもきちんと聞いていた。署名押印も自分で行った。公証人も判断能力ありと認めたので遺言書が作成できた。遺言書は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。遺言作成当時、遺言者は認知症であり、また遺言内容も複雑であり、そのような遺言を作成する能力はなかったと判断。

 

【備考】

  • 遺言作成当時、遺言者はアルツハイマー型老年痴呆と診断されていた。
  • 遺産の一部のみ共同で相続させたり、複数の遺言執行者を指定したり、執行者の一方への報酬は細かく料率が指定してあったりと、内容が複雑であった。
  • 公証人の遺言読み上げに対し、遺言者は「はい」「そのとおりです」などの簡単な返事しかしていなかった。
  • 平成18年9月15日横浜地裁判決

 

遺言者は軽度の認知症であったが、遺言は有効と判断された事例

【双方の主張】

【長男】遺言書の内容は単純で、しかも本人(遺言者)にしか表現できない内容。署名もしっかりとされている。公証人も立ち会った証人も本人の判断能力に問題があるとは感じなかった。遺言書は有効である。

【長女・二男・三男】遺言作成当時、本人はアルツハイマー型老年痴呆であり遺言能力はなかった。遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。遺言者は軽度の認知症であったが、本件遺言をするぐらいの能力はあった。

 

【備考】

  • 本事例は、一審で遺言能力が否定され、控訴審で遺言能力が認められた。
  • 遺言者は普段、身のまわりのことは自分で行い、知人との日常的な会話も成り立っていた。
  • 遺言作成時も、公証人に対し、長男に遺産を相続させる旨やその理由をはっきり述べていた。
  • 控訴人は、家業を継ぎ、先祖の供養や遺言者の世話をしており、遺言書にもこれらのことが遺言の動機として記載されていて、遺言者の生前の意向と遺言書の内容が合致していると裁判所に認定された。
  • 平成14年3月25日東京高裁判決

 

痴呆症状のある高齢者が作成した3度目の公正証書遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【長女】遺言作成当時、遺言者は遺言の内容をはっきりと理解しており、痴呆の症状も出ていなかった。また遺言の作成方式にも問題はなく、遺言は有効である。

【長男】遺言者は、本件遺言書を作成する1か月前に別の公正証書遺言を作成しており、それと全く異なる遺言書を作成する意思と能力があったとは考えられない。また遺言作成の方式にも不備があると思われる。遺言は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。遺言作成当時、遺言者の痴呆の症状はそれほど酷くはなく、受け答えもしっかりしていたので、物事を理解する能力はあった。また方式にも不備はなかった。本件遺言は遺言者の真意に沿った内容であり、本件遺言よりも1か月前に作成された遺言書のほうこそ内容が遺言者の意思に沿ったものかどうか疑わしい。

 

【備考】

  • 昭和52年4月(長女に相続させる内容)と昭和63年6月(長男に相続させる内容)に公正証書遺言を作成しており、本件公正証書遺言(昭和63年7月[長女に相続させる内容])は3回目の作成であった。
  • 平成6年1月21日和歌山地裁判決

 

公証人の質問に単に頷いただけであり、遺言は無効とされた事例

【双方の主張】

【相続人の一人】公正証書遺言は有効である(主張の詳細不明)。

【他の相続人】遺言者は公証人の質問にうなずいただけであり、公証人が遺言者の口述を筆記したものではないので、遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。公証人の質問にきちんと言語をもって答えることなく、単にうなずいただけでは遺言作成の要件を満たさない。

 

【備考】

  • 遺言者は公証人の複数の質問に全てうなずき返したが、言葉は一言も発しなかった。
  • 遺言者は遺言作成当時、切迫昏睡の状態にあった。
  • 昭和51年1月16日最高裁判決

 

痴呆が相当進行していたにもかかわらず遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【原告:遠い親戚】遺言者には、異常な行動や不潔行為、暴力行為等がみられ、また長谷川式知能テストでは4点という非常に高度な痴呆という結果が出ていた。遺言作成当時、遺言できる能力はなかった。遺言は無効である。

【被告:遠い親戚】遺言者の痴呆症状は良い時もあった。遺言作成当時は調子が良く遺言を作成する能力があった。遺言は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。遺言書作成当時、相当に痴呆が進んでいたものの、遺言者の意思疎通能力、遺言を作成するに至った経緯やその状況、遺言内容の単純さなどの諸事情を総合的に勘案すると、遺言する能力は十分に有していたといえる。

 

【備考】

  • 遺言者は平成5年に、原告に全遺産を遺贈するという公正証書遺言を作成している(本件遺言は平成12年作成)。
  • 病院入院後は主として被告が遺言者の世話をみていた(介護や入院の手続き、通帳印鑑の管理、未払い治療費の精算、遺言者が支払えない治療費や税金などの肩代わりなどをしていた)。
  • 本件遺言作成当時、遺言者は90歳であった。
  • 本件遺言作成当時、被告は以前に遺言書を作成していることや、原告の存在を知らなかった。
  • 遺言者の公証人への返答もしっかりとしていて、自分の意思を明確に表していた。
  • 平成13年10月10日京都地裁判決

 

記憶力や理解力が衰えた遺言者(95歳)が作成した公正証書遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【二男】遺言者は95歳の高齢であり、脳梗塞や静脈血栓を患っていたこともあって寝たきりの状態であった。遺言書がもたらす重大な結果を認識できるような能力はなかった。遺言は無効である。

【長男・三男】公証人の質問にもはっきりと返答しており、遺言書作成当時、意思能力に全く問題はなかった。遺言書は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言は有効。平成13年6月の時点で(遺言作成は同年1月)反応は良好であったこと、質問したことに対して別の答えが返ってきたという調査結果は聴力の衰えや反応の鈍さが原因だと考えられること、介助を受けながらも遺言者本人が公証役場に赴き公証人の前で自ら署名していること、署名の乱れは身体機能の低下によるものであること、遺言内容もあながち不自然とは認められないことなどを総合的に考慮すると、遺言作成当時、遺言の内容を理解できないほどに判断能力が衰えていたとはいえず、遺言の意味を理解できる能力は十分に有していたと認定するのが相当である。

 

【備考】

  • 長男は高校卒業後、遺言者と一緒に仕事をしていた。
  • 二男は大学卒業後、一旦は他社に就職したが、その後退職し、遺言者の会社に入社していた。
  • 遺言者や遺言者の妻の世話は、同居している長男の嫁が行っていた。
  • 遺言者は会社から退いた後、経営権を二男に譲った。長男は退職。退職金の支給はなかった。
  • 平成12年に長男と二男が絶交状態となり、二男が遺言者と接触する機会はなくなった。
  • 遺言の内容は、会社に関する財産は二男に相続させ、それ以外の財産を長男や三男に相続させ、遺言執行者は長男というものであった。
  • 平成17年2月18日東京地裁判決

 

税理士が作成した案文をもとに作成された公正証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【長男】パーキンソン病による痴呆が進行しており、遺言者に遺言する能力はなかった。遺言者が公証人に遺言内容を伝えることは不可能であり、遺言書は無効である。

【妻・二男・長女】遺言者の能力に問題はなく、公正証書遺言の作成にも問題はなかった。遺言書は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。遺言書作成時、遺言者には遺言内容を決めたり、遺言の効果を理解したりするような能力はなかった。

 

【備考】

  • 遺言案は、遺言者が税理士に遺言の相談をした日から約2年後に、遺言者の長男からの依頼により同税理士によって作成された。
  • 公証人の読み聞かせに対し、遺言者は「はあ」「はい」などの返事しか発しなかった。
  • 読み聞かせの後、公証人は公正証書を再度読み返したが、読み返した通りの内容で良いか遺言者本人に確認を求めなかった。
  • 遺言者は自分で署名することが出来なかったので、公証人が代理署名した。
  • 公証人は、遺言者の主治医に、遺言が可能な状態であったとの診断書作成を依頼したが、医師に断られた。
  • 平成11年9月16日東京地裁判決

 

統合失調症である遺言者の作成した公正証書遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【義理の妹】遺言書を作成する前から死亡の時まで、精神分裂病(統合失調症)の治療のために病院に入院していた等の事実から、遺言書を作成する能力は欠如していたとみるのが妥当であり、遺言は無効である。

【遺言執行者】遺言作成当時、遺言能力が欠如していたとの主張は間違いである(主張の詳細不明)。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。遺言内容は比較的単純であり、本件遺言書を作成するのに必要な理解力や判断力がなかったとまでは言えない。また遺言を作成した動機も合理的である。

 

【備考】

  • 遺言者は、入院前に一時就労していた。また入院後も自分が病気であるという自覚があり、遺言作成時も異常な言動は見られず、開放病棟にて室内作業に従事したり、自分で計算した上で書籍を購入したり、ひとりで交通機関を乗り継いで通院したりしていた。
  • 平成2年6月26日大阪高裁判決

 

受取人指定の生命保険金を遺贈するとした公正証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【長男】二男が受け取った死亡保険金のうち300万円は、遺言により二男に遺贈されたものであるので、遺言者の相続財産と言え、遺留分算定の基礎となる財産に含まれる。

【二男】死亡保険金は受取人固有の財産であるので、遺言者の相続財産ではなく、遺留分算定の基礎となる財産に含まれない。

 

【裁判所の判断】

遺言は無効。保険金請求権は受取人固有の財産であり、相続財産ではないので、遺贈の目的とすることはできない。よって本件遺言は死亡保険金を受取人以外の相続人に遺贈するものとする限度において無効である。また死亡保険金を受取人以外の第三者に遺贈する旨の遺言を行っても、それだけでは保険金受取人の変更とはならない。

 

【備考】

  • 遺言者は昭和51年9月に被保険者を自身、受取人を妻(B)とする生命保険契約を締結した。
  • 上記保険契約締結後、死亡保険金のうち300万円を二男(D)に遺贈し、その他の財産をすべて長男(C)に遺贈するという内容の公正証書遺言を作成した。
  • 昭和52年12月に遺言者死亡。DはBに支払われた死亡保険金のうち300万円をBより受領した。
  • 昭和53年12月、DはCに対し遺留分の返還を求めて調停を申し立てた。
  • 昭和60年9月26日東京高裁判決
  • ちなみに遺言により保険金受取人を変更したい場合は、保険会社・保険の種類・保険番号などで契約を特定した上で「~の保険金受取人を〇〇に変更する。」と記載する。

 

証人の一人が少し遅れて立ち会った公正証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【相続人の一人】公正証書遺言に立ち会う証人は、遺言書の読み聞かせに関わり、内容の正確なことを承認して署名押印すればよく、必ずしも終始公正証書遺言作成の手続きに関与する必要はない。遺言書は有効。

【他の相続人ら】遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝える際に、立会証人の一人が立ち会っていない。またその立会証人が加わった後に公証人によってなされた遺言内容の読み聞かせでは、遺言者はうなずいていただけで一言も発していない。これでは、遺言者の真意を証人が充分に確認したとはいえず、民法969条の方式に違反しており、遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。遺言内容の筆記が終わった後から立会証人の一人が加わったが、その後の公証人による筆記内容の読み聞かせでは遺言者は一言も発せずにただうなずいたのみであり、これでは当該立会証人が遺言者の真意を十分に確認したとはいえず、本件遺言は民法969条所定の要件をみたしていない。

 

【備考】

  • 公証人による遺言者に対する質問(住所、生年月日、自署の可否、財産額、遺言の内容確認)が終わり、遺言者所有の土地を娘に譲るとしてその娘の名前を口述しているときに、証人の1人が到着した。そしてさらに20分ほど遅れてもう1人の証人が到着し、ようやく立会証人2名が揃った。2人目が到着したときには、すでに公証人と遺言者の応答は終わり、公正証書の原本は関係人の署名部分を除き、既に筆記が終了していた。
  • 2人目の証人到着後まもなく、公証人の指示により証人2名は証人欄に署名をした。
  • 公証人が遺言内容を読み上げ、これに間違いがないかと尋ねたところ遺言者はうなずく仕草をみせ、さらに証人の1人が大きな声で「これでよいか」と確認したところ、遺言者は再びうなずく仕草をみせた。
  • あらかじめ遺言者から自署は無理だと聞いていた公証人が、遺言者に代わって署名をした。
  • 昭和52年6月14日最高裁判決

 

方式に不備があったが、公正証書遺言として有効とされた事例

【当事者の主張】

【孫(代襲相続人)】公正証書遺言には、「印鑑証明書を提出させてその人違いでないことを証明させた」との記載があるにもかかわらず、実際には提出させていなかった。これは公正証書の成立要件を欠いており、遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。公証人が遺言者と既に面識があり、その氏名も知っており、人違いでないことが明らかであれば、面識がある旨の記載がなく、印鑑証明書が提出されていなくても、公正証書の効力は認められる。

 

【備考】

  • 遺言者と公証人が初めて会ったのは、昭和45年6月であり、その時に印鑑証明書にて本人確認を行っていた。また本件遺言書を作成する一週間前にも、遺言者の依頼で同じ公証人が賃貸借契約公正証書を作成していた。
  • 昭和57年1月22日最高裁判決

 

受遺者の親が作成したメモを基礎として作成された公正証書遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【相続人】公証人の読み聞かせや問いかけに対し、「そのとおりである」とだけ答え、公証人が遺言書を最後に通読したときも単に頷いただけでは、法に定める要件「口授」を充たしておらず、遺言は無効。

【遺言執行者】問題なく要件も充たしており、遺言は有効。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。公証人の読み聞かせに対し「そのとおりである」と声に出して答え、公証人に促されながら受遺者の名前や遺贈に関する数字を声に出して伝え、最後に公証人の通読に対して大きくうなずいたという事実などを考慮すると、本件公正証書遺言が無効とはいえない。

 

【備考】

  • 公証人作成の遺言書は、受遺者の親が作成したメモを基礎にして作られたものであった。
  • 遺言者は疲労のために自署ができなかった(捺印は公証人に助けられながら行った)。
  • 昭和54年7月5日最高裁判決

 

遺言により特定の遺産を相続するとされた子が先に死亡したが、先死した子の子(孫)に代襲相続させたいという遺言者の意思が認められるとして代襲相続を認めた事例

【双方の主張】

【先死した子の子(孫)】代襲相続人である自分が遺言書で指定された遺産を代襲相続できる。またそれが遺言者の意思にも沿う。

【遺言者の他の子】遺言書にて遺産を取得するとされた者が先に死亡した場合、遺言の効力は失効する。また代襲相続させることは遺言者の意思ではない。

 

【裁判所の判断】

代襲相続を認める。本件の事情のもとでは、特定の遺産を取得するとされた相続人が先に死亡した場合でも、代襲相続の規定が適用ないし準用される。

 

【備考】

  • 原審では、代襲相続の規定の適用は否定された。
  • 特定の遺産を相続させようと考えていた相続人(A)の死亡後に、遺言者はAの子に他の相続人と同様に遺産を相続させようとする内容の自筆証書遺言を作成しようとしていた。
  • 平成18年6月29日東京高裁判決

 

遺言により遺産を相続するとされた長男が先に死亡したが、先死した長男の子(孫)に代襲相続させることはできないとされた事例

【双方の主張】

【先死した長男の子ら】代襲相続の規定が適用されるべき。またそれが遺言者の意思にも沿う。

【先死した長男の弟ら】代襲相続を希望する旨の記載はないので、遺言の効力は失効する。またそれが遺言者の意思にも沿う。

 

【裁判所の判断】

代襲相続は認めない。遺産を相続させたい相続人が先に死亡した場合に、その代襲相続人に遺産を相続させたいという遺言者の意思が認められるような特段の事情がない限り、代襲相続の規定は適用ないし準用されない。

 

【備考】

  • 「遺言者と先死した長男が共同して不動産運用事業を行っていた」「遺言者は長男と特に親密であった」「遺言者が長男の子らと同居する意思を持っていた」などの主張はいずれも裁判所に否定された。
  • 平成21年11月26日東京地裁判決
  • 平成23年2月22日の最高裁判決でも、本判決と同様に、特段の事情が認められない限り代襲相続の規定は適用ないし準用されないとした。

 

婚姻関係の破綻している男性が作成した“愛人に包括遺贈する”との公正証書遺言が公序良俗に反せず有効とされた事例

【双方の主張】

【戸籍上の妻(妻A)、子、抵当権者】遺言者と妻Aの婚姻関係は未だ夫婦としての実体を失っていなかった。本件遺言は全財産を妾に譲る内容であり、また妻Aや子の生活を脅かすものであるので、公序良俗に反し無効である。

【内縁関係の妻(妻B)】遺言者と妻Aとの婚姻関係は、妻Bとの同棲が始まった時点で既に破綻していた。また遺言者の財産である土地建物は妻Bとの同棲生活が始まった後に購入したものである。本件遺言は妻Aと子の生活を脅かすようなものではなく公序良俗に反せず有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言は有効。遺言者と妻Bの同棲が始まった頃には既に妻Aとの婚姻関係は破綻していた点、公正証書遺言が作成されたときには妻Bとの内縁関係が約10年続いていた点、遺産のほぼ全てを占める土地建物は遺言者が妻Aと別居した後に妻Bとの生活のために購入したものである点、妻Bも土地建物の購入代金の一部を負担している点、遺言の目的が妻Bの生活保全を目的にしている点、妻Aが生前に相当な贈与を受けており、妻Aとの子も既に独立していて生活が脅かされるとは考えられない点などを総合的に考慮すると、公序良俗に反しているとはいえない。

 

【備考】

  • 遺言の内容は「全財産を妻Bに遺贈する」というものであった。
  • 昭和49年頃から遺言者と妻Aの仲が悪化し、昭和50年に別居。妻Bとは昭和53年に同居を開始した。
  • 昭和57年に本件遺言の遺贈目的となっている土地建物を購入し、妻Bとともに移り住んだ(土地建物の相続開始時の価額は1,617万円)。
  • 昭和61年に遺言者は妻Aに対して、1000万円(退職金から)を贈与した。
  • 昭和63年に本件遺言を作成。平成元年遺言者死亡。
  • 平成4年9月11日仙台高裁判決

 

特定の相続人に「相続させる」との遺言があったが、他の相続人が自己名義に登記してしまった場合に、遺言執行者は所有権移転登記を求めることができるとされた事例

【双方の主張】

【遺言執行者】遺言執行者が所有権移転登記手続きを求めることはできる。

【遺言者の子(A)と養子(Aの子)】特定の不動産を特定の相続人に相続させるとの遺言がある場合は、遺言執行の余地はなく、遺言執行者は所有権移転登記手続きを求めることはできない。

 

【裁判所の判断】

遺言執行者は所有権移転登記手続きを求めることができる。特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」との遺言がある場合でも、他の相続人が相続開始後に当該不動産を自己名義に登記してしまっているとき(遺言の実現が妨げられるような状態が出現したようなとき)は、遺言執行者は遺言執行の一環として所有権移転登記の抹消登記手続きのほか、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続きを求めることができる。

 

【備考】

  • 遺言者は昭和57年10月に一旦全財産を子(A)に相続させる旨の公正証書遺言(旧遺言)を作成しているが、昭和58年2月にその遺言を公正証書によって取り消し、同時に新たな公正証書遺言(本件遺言)を作成した。
  • 平成5年1月に遺言者が死亡。同年2月にAが旧遺言を使って、本件各土地を自己の名義にする所有権移転登記をしてしまう。その後遺言執行者がAに対し、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続きを求めて提訴した。
  • 平成11年12月16日最高裁判決

 

養子縁組の離縁が公正証書遺言の取消しであるとみなされた事例

【当事者の主張】

【不動産の受贈者ら】遺言の取消しは、遺言と両立させない趣旨が明白な場合でなければ認められるべきではない。原審は遺言者に遺贈の意思がなくなったと推測しているにすぎない。遺言者の意思が明確に表現された事実はなく、離縁が遺贈と両立させない趣旨でなされたことが明白だとは認められない。遺言の取消しは認められない。

 

【裁判所の判断】

遺言は取り消されたものとみなす。遺言者は終生扶養を受けることを前提として受贈者らと養子縁組をし、所有不動産の大半を受贈者らに遺贈するとの遺言を作成したが、その後受贈者らに不信の念を抱き、受贈者らと協議離縁をし、法律上事実上受贈者らの扶養を受けないことにした。この協議離縁は本件遺言と両立しない趣旨のもとになされたものであり、よって本件遺言は後の協議離縁と抵触するものとして民法の規定により取り消されたとみなさざるを得ない。

 

【備考】

  • 昭和48年、遺言者と受贈者らが養子縁組をし、その5日後に遺言者所有の不動産の大半を受贈者らに遺贈するとの公正証書遺言を作成する。
  • 昭和49年、受贈者らが無断で遺言者所有の不動産に担保権を設定していたことが発覚する。
  • 昭和50年、受贈者らと遺言者が協議離縁。
  • 昭和52年、遺言者死亡。
  • 昭和56年11月13日最高裁判決

 

 

自筆証書遺言(手書き遺言)の裁判例

日付に「吉日」と記載された自筆証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【相続人の一人】日付が必要をされるのは、判断能力がある時に遺言が作成されたのか、複数の遺言書が発見された場合にどれが最新のものか等を判断するためであるが、本件ではそれらを日付によって判断する必要はない。「吉日」とは「大安」を指すものであり、昭和41年7月の大安は2日・7日・13日・23日・29日の5つなので、本件遺言は日付が5つ記載された遺言である。本件遺言は最終の大安日である7月29日に完成された遺言とみるべきである。「吉日=大安」と解することが無理だとしても、昭和41年7月の1日から31日の間に作成された遺言なのだから、最終日の7月31日に完成された遺言と解すべきである。

【別の相続人の一人】年月のみの記載であり、日の記載がない遺言なので、法的に無効である。遺言作成から死亡まで約10年が過ぎていること、その間に遺言者は3人の子を設け、財産も数倍に増やしていること等から、この遺言が遺言者の最終意思だとは考えられない。本件遺言書の他に遺言書がある可能性がある。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。遺言者に遺言能力(判断能力)があり、他に遺言書が見当たらないからといって、日の記載のない遺言書を有効とすることはできない。

 

【備考】

  • 最高裁は原審(東京高裁判決)の判断を正当とした。
  • 最高裁は、日の記載がないという理由だけで遺言を無効とするのは遺言者の意思を反映させるという制度の趣旨に反するという見解がないわけではないとしつつも、本件判断を下した。
  • 昭和54年5月31日最高裁判所判決

 

事実でない日付の記載がある自筆証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【相続人3名】実際には昭和57年12月以降に作成された遺言であるにもかかわらず、それ以前の「昭和56年4月4日」を作成日としている。本件遺言書は、作成日付のない遺言書と同じであって法的に無効である。

【他の相続人と遺言執行者】遺言書の日付は、遺言能力があったかどうか、複数ある遺言書のどれが一番新しいかをはっきりさせるために必要なものである。遺言書作成当時に判断能力があり、他に遺言書も存在しない今回のような場合は、作成日を遡らせた遺言書も有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。2年近くも遡った日付けを記載しているところから、単なる書き間違いだとはいえない。事実と異なる日付の記載のある遺言書は、日付のない遺言書と同じであり、民法に定める方式を欠いている。

 

【備考】

  • 遺言書に記載された遺言執行者の住所が、遺言作成日よりも1年以上後に転居した住所だった。
  • 平成5年3月23日東京高裁判決

 

遺言作成の8日後に日付を追記した自筆証書遺言が有効とされた事例

【当事者の主張】

【相続人の一人】遺言書記載の日付は、日付を追記した日であって作成日の日付ではないので、法的に無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。本件自筆証書遺言は、日付が書き足された日に成立した遺言書とみるのが相当である。

 

【備考】

  • 最高裁は、本文・署名等の記載行為と8日後の日付記載行為を一体の行為とみてよいと判断した。
  • 昭和52年4月19日最高裁判決

 

他人に添え手してもらった自筆証書遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【子と孫】手を添えた者が本人の意思に反した遺言を書かせることは不可能であり、添え手をした者の意思が介入することはないので、遺言書は有効である。

【他の子】遺言者は筆を持っていただけで、ほぼ添え手をした者によって書かれたとしか言いようがないので、自筆とはいえない。遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。本件遺言者は添えてをした妻の意思(きれいに字を書こうとする意思)が介入しており、民法の自書の要件を充たさない。遺言者本人の筆跡であることが必要。

 

【備考】

  • 遺言者が独力で遺言書を書こうとしたが、判読が難しいため破棄し、妻に添え手をしてもらった。出来上がった遺言書の一部には、達筆な草書風の文字もあった。
  • 遺言者が記載しようとする内容を口に出しながら筆記したという状況は認めつつ、上記判断となった。
  • 3通の筆跡鑑定書が提出され、そのうち2通の筆跡鑑定では遺言者本人の筆跡であるとの鑑定結果が出されたが、採用されなかった。
  • 昭和62年10月8日最高裁判決

 

赤い斜線が引かれた遺言が無効とされた事例

【裁判所の判断】

遺言書に故意に斜線を引く行為は、斜線を引いた後になお元の文字が判読できる場合でも、その行為の一般的な意味に照らして、遺言書全体を不要のものとし、そこに記載された全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であり、民法1024条の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し、遺言を撤回したものとみなされる。

 

【備考】

  • 遺言書には、長男に土地や預金などを相続させると書かれていたが、全体に赤いボールペンで斜線が引かれていた。遺言者の長女が長男を相手取って提訴した。
  • 平成27年11月20日最高裁判決

 

年月の記載しかない(日の記載がない)遺言が無効とされた事例

【裁判所の判断】

遺言は無効。年月の記載だけでも遺言者の遺言能力が判断でき、他に残された遺言書もないという場合においても、日の記載のない遺言は民法968条1項の要件を欠き無効である。

 

【備考】

  • 遺言者には毎年1月1日に重要な書類を書くという習慣があった。
  • 昭和52年11月29日最高裁判決

 

「相続人を指定」と記載した遺言は、遺贈ではなく、民法で認められていない「相続人の指定」であるとして無効とされた事例

【双方の主張】

【被相続人の兄弟たち】法律で認められていない「相続人の指定」を内容とする遺言なので無効。家督を継ぐ者に遺産を譲るという、旧民法における「相続人の指定」であり、無効である。

【被相続人の姪A】遺言書に「第一相続人〇〇(姪A)を指定」とあり、遺産全部を姪Aに遺贈するという遺言として有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。被相続人とその姪らとの養子縁組の話があったという事実や、遺言書の中身では遺産の承継そのものには触れず、家の再興を願う旨の記載があることなどより、被相続人の真意は、遺産を姪に遺贈することにあるのではなく、旧制度における「家」を守る(被相続人の姓を絶やさない)ようにするために相続人を定めることにあったとみるべきであり、その結果として遺産の承継を考えていたに過ぎない。本件遺言は、姪Aに遺産を遺贈する旨を定めたものではなく、現行民法上認められていない相続人の指定を定めたものであり、無効である。

 

【備考】

・子のいなかった被相続人は死亡までに、数回にわたり、姪Aを含む親族に養子縁組を打診したが拒絶された。

・被相続人は姪Aに対し、養子縁組を計6回申し出たが、すべて拒絶された(最後の申し出は死の3日前)。

・遺言内容「第一相続人姪Aを指定 第二相続人B(甥の娘)を指定 右の第一相続人不承認の場合は第二相続人とする。第二相続人も不承認の場合は兄弟姉妹オイ等で財産を処分することなく右の方々で相談のうえ相続人を選定し〇〇家の再こうをお願いします。」

・昭和60年10月30日東京高裁判決

 

添付の不動産目録がタイプ印書であったため遺言書が無効とされた事例

【双方の主張】

【不動産を相続した相続人】添付の不動産目録がタイプ印書されていたとしても、遺言書は有効である。

【他の相続人】添付の不動産目録が自書ではないので、自筆証書遺言の要件を充たしていない。遺言書は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。本件遺言に関しては、不動産目録が遺言書の最も重要な部分であり(目録と遺言書を対比してはじめて相続させる財産を特定できる内容となっており)、目録のタイプ印書を行ったのも遺言者本人ではなかった。仮に本件遺言書が、遺言者本人の意思に基づいて作成されていて、遺言者の真意を表現するものであったとしても、全文自書という要件を充たしているとはいえず無効である。

 

【備考】

  • 不動産目録は司法書士がその事務員に命じてタイプ印書させていた。
  • 昭和59年3月22日東京高裁判決

 

タイプライターで作成された自筆証書遺言が有効とされた事例

【当事者の主張】

【内縁の配偶者】遺言者(英国籍)は普段から自筆の代わりにタイプライターを使用していた。本件遺言書は遺言者本人がタイプしたものであると認められるので、自筆と同視でき、遺言書は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。本件遺言書は、タイプライターで書かれているが、遺言者が平素から自書の代わりにタイプライターを使用していたこと、また遺言者本人がタイプしたものであることが認められることなどの事実より、自筆に匹敵するものと言える。本件遺言書は要件を充たしており、自筆証書遺言として適法かつ有効である。また本件遺言書を有効と判断することは、「遺言の方式の準拠法に関する法律」の立法趣旨(外国人による遺言をできる限り有効とする)にもかなう。

 

【備考】

  • 本事例は、既に検認手続を終えた自筆証書遺言の、遺言執行者選任申立ての段階で下された判断。
  • 英国法では、2名以上の立会証人のもと作成されていれば、タイプライターを使用した遺言書も認められている(本件での立会証人は1名だった)。
  • 遺言書に遺言者の署名と捺印はあった。
  • 昭和48年4月20日東京家裁審判

 

署名押印が、文書ではなく開封済み封筒にだけある遺言が無効とされた事例

 【裁判所の判断】

遺言は無効。文書と封筒が一体のものとして認めることができない以上、本件文書は署名押印を欠いた遺言書であり、民法968条1項所定の方式を欠く。

 

【備考】

  • 文書に署名押印はなく、既に開封されている封筒にのみ署名押印があった。
  • 遺言書の発見者である長男は、遺言者と2人で同居していたが、同居しはじめたのは遺言者死亡の数カ月前からだった。よって遺言発見時の状況は長男にしかわからない状態だった。
  • 長男は遺言の存在を四十九日法要まで言わなかった。また他の相続人から求められても原本は提示せずコピーのみを提示し、封筒にいたっては原本もコピーも提示しなかった。遺言書の発見時期も言わなかった。
  • 平成18年10月25日東京高裁判決

 

遺言書自体に押印はないが、封筒にされた押印をもって有効とされた事例

【双方の主張】

【後妻】遺言書自体に押印がないので、これは自筆証書遺言の要件を欠く。遺言書は無効である。

【先妻との間の子ら】遺言書自体に押印がなくても、封筒の封じ目に押印があり、自筆証書遺言の要件を充たしている。遺言書は有効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。本件封筒の封じ目にされた押印は民法968条1項の要件を欠くものではない。法が押印を要するとしている趣旨は、遺言の全文等の自署とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保する点、また押印することによって文書の完成を担保する点にあり、この趣旨が損なわれない限り押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しない。

 

【備考】

  • 封筒の封じ目には左右2か所に認印が押印された上で、遺言者本人と後妻が暮らす住所宛に郵送されていた。
  • 本件遺言書は書簡形式であったが、文書の文言、郵送をした事実、保管状態などから自筆証書遺言にあたると判断された。
  • 平成6年6月24日最高裁判決

 

署名はあるが押印のない英語で書かれた自筆証書遺言が有効とされた事例

【当事者の主張】

【遺言者の亡き兄の子ら(代襲相続人)】押印がない本件遺言書は、民法所定の方式を備えておらず法律上無効である。民法968条1項に「遺言書が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とはっきり明文化されている。原審の判決は明文に反しており、こういった認定を日本の裁判所が認定したことは国際信用にかかわる。法治国家の面目のためにも原判決の破棄を求める。

 

【裁判所の判断】

遺言は有効。本件自筆証書遺言を有効とした原審の判断は正当であり、本件上告を棄却する。

 

【備考】

  • 遺言者は無国籍の白系ロシア人であったが、昭和38年に日本に帰化した。昭和41年死亡。
  • 遺言者は日本に約40年間居住していたが、主に英語とロシア語を話し、日本語は片言であった。
  • 遺言者の日常生活はヨーロッパ式であり、交際相手も主にヨーロッパ人に限られ、ハンコも役所等相手から要求されるような場合にしか使っていなかった。
  • 昭和49年12月24日最高裁判決

 

妻が署名していない夫婦連名の遺言が、夫の単独遺言とならず無効とされた事例

【双方の主張】

【遺言者の長男・五男・六男・四女】本件遺言は、父が単独で作成したものであるから、父の単独遺言として有効である。父が母の氏名も書いたが、それは単に遺言の威厳を示すためであったに過ぎない。

【遺言者の三男・四男】父母の署名は、父母の自書ではなく民法968条1項が定める方式に反している。また連名の遺言なので民法が禁止する共同遺言にあたり無効。

 

【裁判所の判断】

遺言書は無効。1つの証書に2名の遺言が記載されている本件遺言書については、そのうちの1名の記載内容に自筆証書遺言の方式として不備があるとしても、民法975条で禁止されている共同遺言にあたる。妻は本件遺言書の作成には関与していないが、共同遺言者になることには承諾しており、本件遺言には夫妻両名の意思表示が含まれている。そして一方の遺言が他方の遺言に深く関係しているという内容になっている。よって本件遺言は共同遺言にあたり、遺言全部が無効である。

 

【備考】

  • 本件遺言は「夫が先に死亡した場合は夫の全財産を妻に相続させる。その後妻が死亡したら妻が夫から相続した財産を遺言書通り相続人の一部に相続させる。妻が先に死亡した場合は夫の遺言書通りに相続人の一部に相続させる。」という内容であった。
  • 夫は妻に遺言内容を説明し、共同遺言者になる承諾は得ていたが、妻の氏名は妻本人ではなく夫が書いた。
  • 昭和56年9月11日最高裁判決

 

夫婦の記名押印のある自筆証書遺言が、夫の単独遺言として有効とされた事例

【当事者の主張】

【遺言者の娘】遺言書が民法975条で禁止された共同遺言の形をとっており、無効。

 

【裁判所の判断】

夫単独の遺言として有効。遺言書が夫の手により作成されている点、妻は遺言書の存在を知らなかった点、不動産に関し妻は一切権利を有していない点、遺言内容が妻の遺言としては法律上全く意味を持たない点などから、本件遺言は、夫のみの単独遺言といえる。

 

【備考】

  • 本件遺言書は、全文・日付・夫の署名・妻の署名、全てが夫により作成されていた。
  • 昭和57年8月27日東京高裁判決

 

破棄又は隠されて存在しない自筆証書遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【長男・三女】遺言書の破棄は遺言者の意思ではなく、遺言が適法に作成されていた証拠もある。遺言は有効である。

【二男・三男・二女】遺言書が存在しないので、その効力も認められず、遺言は無効。

 

【裁判所の判断】

遺言は有効。本件遺言書については、作成の動機・経緯・方法、遺言の同一性を確認できる証拠の存在などを考慮すると、民法が要求する方式に則った遺言書であったと推測される。本件遺言書は適式、有効な遺言としてその効力を認めるのが相当である。

 

【備考】

  • 本件遺言書は、破棄又は隠匿されており現存しないので、検認の手続きも経ていない。
  • 遺言者は弁護士に遺言書作成を依頼し、弁護士が下書きを作成した。その下書きを元に遺言者が自書し、弁護士に遺言書を郵送した。弁護士は届けられた遺言書のコピーに誤り部分を訂正し、訂正方法や封書の書き方、封印の仕方を記載した見本もつけて遺言者に送り返した。それに従って遺言者は遺言書を作成した。
  • 本事案では、一部の相続人が遺言書訂正の現場に立ち会い、かつその訂正の正確なことを確認している点、そして弁護士による添削を受け、あとは清書するだけとなっている段階の遺言書が証拠として提出された点が、判決に大きく影響した。
  • 平成9年12月15日東京高裁判決

 

不倫相手女性へ遺贈するとの遺言が公序良俗に反するとされた事例

【双方の主張】

【不倫相手の女性】遺言書により、遺産の10分の3は私に包括遺贈されているので、不動産についても10分の3の持分を求める。

【妻】遺言書に記載されている包括遺贈は、不倫関係を続けるためにされたものであり、公序良俗に違反しているので無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言は無効。不倫関係を維持するためになされた財産的利益の供与は、社会通念上許容される場合を除いて、公序良俗に反し無効である。遺言者と妻とは40年以上生活を共にしてきたが、不倫相手とは遺言者の成功後に10年間交際しただけであること、遺言者と妻の夫婦関係は普通に続いていたこと、不倫相手にも配偶者がいたこと、不倫相手への包括遺贈は妻ら相続人の生活に甚大な影響を与えること、不倫相手は遺言者の生前から相当の経済的援助を受けており今後も経済的に困窮するような状況にないこと、遺贈の仕方が著しく不合理でありその内容も過大であることなどの事実より、社会通念上認められるものではない。

 

【備考】

  • 不倫相手と遺言者は、不倫相手の夫の紹介で出会い、遺言者が無理に情交を迫り肉体関係に至った。
  • 不倫相手の女性はこれを夫に打ち明けたが、夫は許さず、夫婦関係は事実上破綻していた。
  • 不倫相手の女性は当初遺言者のことを憎んでいたが、正式に結婚して責任を取るという遺言者と関係を持つようになった。
  • 昭和56年4月23日福岡地裁小倉支部判決

 

不倫相手女性へ遺贈するとの遺言が公序良俗に反せず有効とされた事例

【当事者の主張】

【妻・長女】本件遺言は、遺言者本人の真意に基づいてなされたものではなく無効である。また不倫関係を維持継続するためだけになされたものであり、公序良俗に反しており無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効。遺言者と妻は既に別居しており夫婦としての実態はある程度失われていたこと、不倫の事実が早い時点で遺言者の家族に公然となっていたこと、遺言書作成前後で遺言者と不倫相手との親密度に変化がないこと、不倫関係の維持継続ではなく不倫相手の生活保全が目的であったこと、妻子も各3分の1を相続できる内容であり妻子の生活基盤が脅かされるとまではいえないことなどの事実より、公序良俗に反するとはいえない。

 

【備考】

  • 本判決は不倫関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗に反しないとした初の最高裁判決。
  • 不倫相手女性は、生計を遺言者に頼っていた。
  • 長女は既に嫁いでおり、高校の講師等をしていた。
  • 遺言内容は不倫相手・妻・長女に各3分の1ずつ遺産を与えるというものであった。
  • 昭和61年11月20日最高裁判決

 

受遺者の具体的選定は遺言執行者に任せるという遺言が有効とされた事例

【双方の主張】

【妹ら】「全部を公共に寄與する」という表現だけでは、受遺者となる範囲が極めて広い範囲になってしまい、実現が困難。また寄付先の選定の有り方によっては、遺言者の真意から離れてしまうおそれもある。加えて、受遺者を誰にするかは遺言者本人が決めるべきことであり、遺言者の決定を遺言執行者に一任することは、遺言行為そのものを遺言執行者に代理させることとなり、許されない。

【遺言執行者】遺言書の内容に問題はない。

 

【裁判所の判断】

遺言書は有効である。本件遺言の趣旨は、公益目的を達成することのできる団体等に遺産の全部を包括遺贈すると理解することができる。遺産の利用目的が公益目的に限定されており、また寄付先もその目的を達することができる団体等に限定されている。そして選定者による選定権乱用の危険も認められない。よって受遺者の選定を遺言執行者に委託するという本件遺言の効力が否定されるいわれはない。

 

【備考】

  • 本判決は、遺言執行者に受遺者の選定を委託する趣旨が含まれるとし、それにより受遺者の特定に欠けるところはないという判断となった。
  • 平成5年1月19日最高裁判決

 

農協が作成した耕地図を使用した自筆証書遺言が有効とされた事例

 【裁判所の判断】

遺言は有効。第三者が作成した図面等を用いた自筆証書遺言も、自筆性が保たれていると解されるときは、自筆証書遺言の方式を欠くということはできない。

 

【備考】

  • 農協作成の耕地図に線を引き、そこに相続人らの名前を記入することにより、土地の分割方法を指定していた。
  • その耕地図には、日付・氏名の自書と押印がされていた。
  • 耕地図上に書かれた文字は被相続人の自筆によるものと認められ、それについては当事者も全員認めており争いはなかった。
  • 平成14年4月26日札幌高裁決定

 

死亡退職金を遺贈するとの遺言が無効とされた事例

【双方の主張】

【遺言執行者】遺言者は遺言によって自己の財産を自由に処分できるはずであり、是正は遺留分制度によってなされるべき。退職金は生前から潜在的に発生していると考えられるから相続財産だとみるべきである。遺言者と妻は遺言作成当時、事実上離婚状態であった。よって遺言は有効である。

【滋賀県】死亡退職金は条例によって支給されるべきであり、遺贈は無効である。

 

【裁判所の判断】

遺言は無効。県の退職手当支給条例は遺族の生活保障を目的としており、民法とは異なる見地で受給権者を定めている。受給権者である遺族は、相続人としてではなく、死亡退職金を自己固有の権利として受け取るものであるから、死亡退職金は相続財産ではない。よって遺贈の対象にもならない。

 

【備考】

  • 遺言者は昭和51年に妻と別居状態に入り、昭和53年には妻の方から離婚調停を申し立てられていた。その後に遺言者は退職金を母親や兄弟に遺贈する旨の本件遺言書を作成した。
  • 昭和58年10月14日最高裁判決

 

遺言内容が明確でないとして遺言執行者選任申立が認められなかった事例

【当事者の主張】

【申立人(相続人)】遺言執行者の選任の審判申立てを行ったが棄却されたため、抗告を申し立てた。

 

【裁判所の判断】

遺言は無効。「A家を継いでくれるB家の子供の中から一人に土地及び建物をあげます」と記載されているが、B家には5名の子があり、受遺者は確定できていない。仮に後継ぎ選びを申立人らに任せるいう趣旨だと理解しても、どういう基準で後継ぎを選ぶのか、申立人らで意見が対立した場合はどうするのかなどについては全く不明であり、受遺者確定の方法が示されていると解することは困難である。また「ついでくれる者がないばあいはよろしくたのむ」とあるが、あまりに漠然としており、祖先の祭祀主宰者を指定したものと解することも困難である。

 

【備考】

  • 遺言には「A家をついでくれるB家の子供の中から一人に土地および家屋をあげます」「ついでくれる者がないばあいはよろしくたのむ」と記載されていた(原文はひらがな部分がカタカナ表記)。
  • 昭和49年6月6日大阪高裁決定

 

特定の不動産を「相続させる」との遺言により取得した場合、相続人単独で登記することができ、遺言執行者には登記手続をする義務は負わないとされた事例

【双方の主張】

【上告人(相続人A)】本件の「相続させる」との遺言の実体は遺贈であり、よって本件不動産の所有権移転登記は上告人と被上告人の共同申請にてなされるべき。被上告人は遺言執行者として所有権移転登記を行う義務を負っていた。また特定不動産を特定の相続人に相続させるとの遺言がある場合に、相続人が単独で登記手続きを行えるという実務上の取扱いは、権利者からの申請を形式的に受理せざるを得ないというだけであり、遺言執行者の登記を行う義務を免除する根拠にはならない。

【被上告人(遺言執行者B)】本件の「相続させる」という遺言について、遺言執行者は所有権移転登記手続きを行う義務までは負わない。

 

【裁判所の判断】

本件遺言について、遺言執行者は登記手続き義務を負わない。上告人に本件不動産が遺贈されたとはいえない。特定の不動産を特定の相続人に相続させるとする遺言により当該不動産を取得した場合、当該相続人が単独で所有権移転登記手続きをすることができ、遺言執行者は遺言の執行として所有権移転登記を行う義務を負うものではない。

 

【備考】

  • 遺言者は昭和58年12月に、本件不動産を上告人(A)に相続させるとの自筆証書遺言を作成。遺言執行者には被上告人(B)を指定。
  • 昭和62年5月に遺言者死亡。同年9月、Aへの所有権移転登記がなされないまま、相続を原因として共同相続人5名の法定相続分に応じた持分移転登記がなされた。
  • 平成1年にAが、所有権移転登記手続義務に違反したとしてBに対し不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。
  • 平成7年1月24日最高裁判決

 

相続させる遺言による不動産取得は、登記なくして第三者に対抗できるとされた事例

【当事者の主張】

【遺言者の子の債権者ら】遺産分割方法の指定とされる「相続させる遺言」による不動産の取得に関しても、第三者に権利主張するには民法177条により登記が必要である。

 

【裁判所の判断】

相続させるとの遺言で不動産又は共有持分権を取得した者は、登記がなくても第三者に権利を主張できる。

 

【備考】

  • 本件遺言の内容は「右土地建物の権利一切を妻に相続させます」「その他一切の財産を妻に相続させます。遺言執行者としては、妻を指定します。」というものであった。
  • 債権者らは、遺言者死亡後、その遺産である不動産の2分の1(債務者(遺言者の子)の法定相続分)に対し仮差押えの登記をおこなった。
  • 原原審(東京地裁、横浜地裁川崎支部)はいずれも本件遺言を包括遺贈であると判断していた。
  • ちなみに、遺贈による不動産取得の場合と遺産分割協議による不動産取得の場合は、いずれも登記していないと第三者に権利を主張することができない。
  • 平成14年6月10日最高裁判決

 

 

危急時遺言の裁判例

【危急時遺言とは】

死期が目前に迫っている者が口頭でする遺言。証人3名以上の立会いと署名押印が必要(遺言者本人の署名押印は不要)。作成後20日以内に家庭裁判所の確認を受けなければ効力は失われる。また作成後に遺言者が回復し、自筆証書や公正証書を作成できるような状態になってから6か月間生存した場合も効力は失われる。

 

遺言者の述べた内容と遺言書の記載内容が一致していたとしても、遺言内容が不合理であり遺言者の真意とは思われない場合には、遺言確認の申立ては認められないとされた事例

【当事者の主張】

【危急時遺言の立会証人】危急時遺言の確認申立てにおいては、遺言の方式が適式であったかどうかは審査対象とはならない。遺言が遺言者の真意に出たとの心証を得ることができれば、遺言確認の請求を認めるべきである。また遺言が遺言者の真意に基づくかどうかは、遺言者が口頭で述べた内容が、立会証人の筆記により遺言書に表示された内容と合致するかどうかによって判断すべきである。

 

【裁判所の判断】

遺言確認申立ては認められない。遺言の確認は、遺言の有効無効を判断するものではなく、遺言書が虚偽ではなく本人の真意に出たものであるとの一応の心証を確保しておくものに過ぎず、危急時遺言の作成方式が法定の方式に違反しているという理由だけで、直ちに遺言が遺言者本人の真意に出たものでないとすることはできない。

また遺言が遺言者の真意に基づいたものかどうかの判断は、遺言者の述べた内容が、遺言書に記載されている趣旨と一致するということだけでは足りず、例え一致したとしても、遺言者が本当にそのような遺言をする意思をもっていたとの心証が得られない場合は、確認の請求を許容することはできない。本件遺言については、遺言者の真意に基づいたものと認定することはできない。

 

【備考】

  • 遺言者は、昭和23年に妻と別居状態になり、昭和25年から別の女性(甲)と事実上の夫婦として同棲していた。
  • 危急時遺言は昭和30年に作成され、同年に遺言者は死亡。遺産額は400万円に満たなかった。
  • 遺言の内容は、「甲(同棲中の女性)に借りている80万円を優先して支払うべきこと」という趣旨のものであった。債務の内容は、遺言者の食費や医療費の立替支払分であるとの記載があった。
  • 裁判所の判断「80万円もの金を貸すほどの資力が同棲相手(甲)にあったとは思えず、また甲が遺言者の生活費や医療費を負担していたとしても、そもそも二人は事実上夫婦として生活していたので、これを「貸金」とすること自体が疑問である。また80万円という額は遺産の約5分の1に相当する多額なものであり、このような多額な債務を遺言者が負担していることを前提とした遺言は遺言者の真意であったとは認められない」
  • 昭和31年2月23日大阪高裁決定

 

 

死因贈与契約の裁判例

【死因贈与とは】

贈与者(贈与する側)の死亡によって効力を生じる贈与契約のこと(例:「甲が死んだら土地建物を乙に贈与する」といった甲乙間の契約)。生前に贈与者と受贈者(贈与を受ける側)の契約によって行われる。契約なので相手の承諾が必要である点、書面である必要はない点、仮登記ができる点、自書である必要はなく家庭裁判所で検認を受ける必要もない点、不動産取得税が課税される点(遺贈の場合も、特定遺贈で且つ相続人以外への遺贈であれば不動産取得税が課税される)などが「遺贈」と異なるが、それ以外は原則として遺贈の規定が準用される。贈与税ではなく相続税が課税される。

 

死因贈与には遺言の取消し規定が準用されるとした事例

【双方の主張】

【配偶者】死因贈与は契約であるから、遺言の取消しに関する規定(民法1022条)は準用されない。また婚姻が既に破綻状態にある場合における取消し権の行使は、相手方に損害を与えることのみを目的としているため、その行使は認められないとしながら、死因贈与契約であれば取り消せるというのでは論理が矛盾する。

【前妻との間の子ら】遺言の取消しに関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されるべきである。

 

【裁判所の判断】

死因贈与には遺言の取り消し規定である民法1022条が準用される(ただし方式に関する部分を除く)。贈与者の死後の財産の処分に関しては、遺贈と同様に、贈与者の最終意思を尊重して決定するのが相当である。また死因贈与の取消権と、夫婦間の契約取消権は別個に独立した権利であるので、一方の取消権行使の効力が否定される場合であっても、もう一方の取消権の効力は認められ得る。

 

【備考】

  • 昭和36年に贈与者(甲)と後妻となる配偶者(乙)が結婚。昭和38年に甲が土地建物を乙に死因贈与する旨意思表示する。昭和40年、土地建物の名義変更を迫った乙に対し、死因贈与であることを理由に登記手続きを甲が拒否したため夫婦仲が悪化。昭和41年に甲が前記死因贈与を取消す意思表示(内容証明郵便を送付)をする。同年、甲は乙を相手方として離婚調停を申し立てる。同年4月、甲死亡。
  • 本事例では、既に婚姻関係が破綻していたという点が重要視されており、死因贈与全般に民法1022条が準用されるというわけではない。
  • 昭和47年5月25日最高裁判決

 

贈与に至る経緯や内容などから死因贈与の取消しはできないとされた事例

【双方の主張】

【贈与者(長男)の弟(上告人:二男)】死因贈与は贈与者が生前にいつでも取消すことができる。贈与者は昭和47年2月25日に本件土地を私に贈与したのであるから、死因贈与は取り消されたということになる。

【贈与者の母や他の兄弟ら(被上告人)】控訴審の和解(昭和28年)において、贈与者は本件土地を上告人ではない弟もしくはその相続人に死因贈与したのであるから、贈与者の死亡により贈与が効力を生じた。

 

【裁判所の判断】

本件死因贈与を自由に取消すことはできない。長男は本件土地について所有権を主張した第一審で敗訴し、第二審で成立した和解により三男(第一審にて真実の所有者であると認められた)から所有権の承認を受ける代わりに、三男およびその子孫に対して本件土地を無償で耕作する権利を与え、占有耕作の現状を承認し、この権利を失わせるような処分をしないことを約束した。また長男は自分が死亡したときは本件土地を三男およびその相続人の贈与することを約束した。このような経緯や、裁判上の和解によってなされたという態様及び和解の内容などを総合的に考慮すれば、本件死因贈与を長男が自由に取消すことはできない。

しかし、だからといって贈与者が死因贈与の目的である不動産を第三者に売り渡すことができないかどうかという問題は、また別の問題であり、死因贈与が自由に取消すことができないからといって、贈与者が死因贈与の目的である不動産を第三者に売ることができないとか、売り渡しても当然に無効であるとはいえない。

 

【備考】

  • 昭和19年、父死亡。長男が家督を相続し、本件不動産は長男名義となる。しかし、長男は生家を離れており、三男が引き継いで本件土地を占有耕作していた。
  • 昭和24年、長男が土地の明け渡しと損害賠償を求めて三男を提訴したが、第一審で長男敗訴(三男に対して本件不動産の贈与があったと認定された)。
  • 昭和28年、控訴審にて裁判上の和解が成立。本件土地は長男のものであることを三男が承認すること、その代わりに長男は三男とその子孫に無償で耕作する権利を与え、その権利を失わせるような処分はしないこと、長男が死亡したときは三男およびその相続人に土地を贈与することなどを内容とするものであった。
  • 昭和47年、長男死亡。
  • 昭和58年1月24日最高裁判決

 

負担付死因贈与の受贈者が生前に負担を相当程度履行した場合は取消しや撤回ができないとされた事例

【双方の主張】

【長男】私は昭和35年に締結した死因贈与契約に従って、毎月の送金を負担してきた。贈与者である父の死亡により、私は父の全財産を贈与により取得したので、その後に作成された遺言書は無効である。なお、民法1023条(遺言の撤回自由)は死因贈与について準用されるべきではない。

【二男、二女、遺言執行者】民法554条(死因贈与にて遺贈の規定を準用する)により、民法1022条・1023条(遺言の撤回自由)は準用される。昭和35年の死因贈与契約は、その後になされた遺言により取り消されたとみるべきである。

 

【裁判所の判断】

本件死因贈与を取消すことはできない。受贈者が死因贈与契約に基づいて負担の全部又は相当程度の履行を既に行った場合には、特段の事情がない限り、遺言の取消しに関する民法1022条、1023条を準用するのは相当でない。

 

【備考】

  • 昭和35年に父と長男の間で負担付死因贈与契約が締結される。契約の内容は、長男が在職中毎月3,000円以上(加えて年2回のボーナスの半額)を父に送金した場合、父は遺産全てを長男に贈与するというものであった。
  • 契約締結後~昭和53年3月31日まで長男は送金を続けた。
  • 昭和49年と52年、父は遺産に属する不動産を二男と二女に遺贈するという内容の遺言書を作成し、昭和53年に死亡した。
  • 昭和57年4月30日最高裁判決

 

受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合に死因贈与は効力を生じないとされた事例

【双方の主張】

【二男の妻】民法994条の受遺者の死亡による遺贈の失効は、死因贈与に準用されない。死因贈与は契約の時点で権利義務が発生しているので、受贈者の死亡ということ事実だけで無効とするのは不当である。

【長男】二男は贈与者である母よりも先に死亡しているので、死因贈与は無効である。

 

【裁判所の判断】

本件死因贈与は無効。死因贈与については民法994条1項(受遺者の死亡による遺贈の失効)が準用される。

 

【備考】

  • 本事案とは異なり、受贈者の財産取得の期待権が重視され民法994条1項の準用が否定されている判決も存在する(平成20年2月7日京都地裁判決)。学説でも民法994条1項の準用について意見がわかれている。
  • 平成15年5月28日東京高裁判決

 

遺贈の承認・放棄に関する規定は死因贈与に準用されないとされた事例

【双方の主張】

【相続人(甲)】受贈者の承認・放棄も民法554条に従って遺贈の規定が準用される。仮に贈与者から乙に死因贈与があったとしても、受贈者である乙の承諾がなく、むしろ放棄したとみるべき事実がある。よってその死因贈与は効力を生ぜず、承認権は既に時効により消滅している。

【相続人(乙)】死因贈与には民法554条により遺贈に関する規定が準用されるが、それは遺贈の効力に関する規定に限られる。遺贈が単独行為であることに基づく承認や放棄に関する規定は、契約である死因贈与には準用されない。

 

【裁判所の判断】

遺贈の承認・放棄に関する規定は、死因贈与には準用されない。遺贈の承認・放棄に関する規定は、遺言が単独行為であることに基づくものであることが明らかであり、契約である死因贈与に準用されるものではない。

 

【備考】

  • 遺贈の承認・放棄に関する規定のほか、遺贈の能力(民法961条・962条)、方式(民法967条)などに関する規定も死因贈与には準用されない。遺贈の効力に関する規定は死因贈与にも準用されるが、取消しについてはどちらの判例も存在する(準用を否定する説の方が有力か)。
  • 昭和43年6月6日最高裁判決

 

 

その他遺言や相続にまつわる裁判例

遺言解釈の原則を示した事例

【裁判所の判断】

遺言解釈にあたっては、文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきである。特定条項を解釈する場合も、遺言書全体との関連性、遺言書作成時の事情、遺言者の状況などを考慮し、遺言書の条項の趣旨を確定するべきである。

 

【備考】

  • 「特定不動産を妻に遺贈するが、妻死亡後は兄弟姉妹へ指定割合どおり遺贈する」という内容の遺言であった。
  • 昭和58年3月18日最高裁判決

 

遺産分割協議は詐害行為取消権の対象になるとした事例

【裁判所の判断】

共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。遺産分割協議は、相続の開始によって相続人の共有となった相続財産について、その全部または一部を各相続人の単独所有とし、または新たな共有関係に移行させることによって相続財産の帰属を確定させるものであり、性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができる。

 

【備考】

  • 被相続人の妻Aがある人物Bの連帯保証人になっていた
  • Bの支払いが遅れたため、債権者C(信用金庫)は、妻Aに連帯保証債務の履行および相続財産である建物Xについて相続を原因とする所有権移転登記手続きを求めた。
  • 妻Aとその子であるDとFは、Aは持ち分を取得せず、DとFが2分の1ずつ建物Xの所有権を取得するという遺産分割協議をし、そのとおりに所有権移転登記をした。その後Aは自己破産の申し立てをした。
  • 債権者Cは、妻Aに対し、貸金残額の支払いと詐害行為による遺産分割協議の取り消し、詐害行為を原因として妻Aが法定相続分を所有する所有権移転登記手続を行うよう求めた。
  • 平成11年6月11日最高裁判決

 

相続放棄は詐害行為取消権の対象とならないとした事例

【裁判所の判断】

相続放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。詐害行為取消権の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを含まないものと解するところ、相続放棄は、相続人の意思から言っても、法律上の効果から言っても、既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが妥当である。また相続放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではない。もし、相続放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ効果となり、その不当であることは明らかである。

 

【備考】

  • 被相続人は、自らが創業し、株主および代表取締役であった会社Xに対して25万円の株金払込債務を負っていた。
  • 相続人は妻Aと子3名であり、子3名は相続放棄の申述を行った。
  • 会社Xの破産管財人に選任されたBは、子3名に対して、被相続人の債務を支払う十分な資力を有し、被相続人が会社Xに対して債務を負っていることを知っていたにもかかわらず相続放棄をなしたもので、相続放棄は、債権者である会社Xをを害する意思をもってなされた詐害行為である等と主張し、子3名にたいして25万円の支払いを求める訴訟を提起した。
  • 昭和49年9月20日最高裁判決

 

遺留分減殺請求権は債権者代位権行使の対象にならないとした事例

【裁判所の判断】

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者がこれを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることはできないと解するのが相当である。民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重して、遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上、これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを、遺留分権利者の自律的決定に委ねたものということができる。遺留分減殺請求は、前記特段の事情がある場合を除き、行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求が認められていることは、帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、上記のように解する妨げにはならない。債務者である相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続財産の有無や相続放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者はこれを共同担保として期待すべきではないから、このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。

 

【備考】

  • 遺言によって相続人Aが相続すべきものとされた不動産につき、遺言で相続分はないものとされた相続人Bに対して貸金債権を有する債権者Xが、Bに代位して法定相続分に従った共同相続登記を行ったうえ、Bの持分に対する強制競売を申し立て、これに対する差押えがされたところ、相続人Aが強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟。
  • 債権者は、債権を保全するため、相続人Bに代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし、遺留分割合に相当する持分の限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
  • 平成13年11月22日最高裁判決

 

相続税対策のための養子縁組が有効とされた事例

【裁判所の判断】

相続税の節税の動機と縁組する意思とは、併存し得る。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組する場合であっても、直ちに民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

 

【備考】

  • 被相続人Aは、長男Bが連れてきた税理士から「孫と養子縁組すると相続税の節税になる」という説明を受け、長男Bの子Xと養子縁組をした。
  • その後、AとBの関係が悪化。Aは「長男の勝手な判断だった」として離縁届を役所に提出した。
  • 孫Xが「離縁は無効である」として、今回とは別の訴訟を提起。離縁は無効とする判決が確定。
  • Aの長女と二女が、「養子縁組はAの意思ではなかった」として今回の訴訟を提起した。
  • 国税庁は今後も課税逃れが明白な縁組では養子分の控除を認めない方針。
  • 平成29年1月31日最高裁判決

 

預貯金も遺産分割の対象となるとされた決定

【裁判所の判断】

預貯金は現金と同様に法律に定められた割合に縛られずに裁判所の判断で遺産分割できる。

 

【備考】

  • これまで預貯金や貸金債権といった「可分債権」は、過去の最高裁判例を根拠に、遺産分割の対象とならないとされていた(家裁の調停ではこれまでも、全員の合意を条件に、預貯金も遺産分割の対象にされていた)。
  • 分割協議の合意まで預貯金を引き出せないと当座の生活費が必要な遺族に不都合が生じるので、「一定分の取得を認めた仮処分制度の活用が考えられる」との補足意見が5人の裁判官から付された。
  • 平成28年12月19日最高裁大法廷決定

 

 

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